カスタマー平均評価: 5
ケルトの戦士の悲しさ ケルトの原典。アイルランド神話の中心クーフリンの物語。 クーフリンといえばアイルランドの戦争「牛捕り」が有名で、 サトクリフのオリジナルにもところどころ出てくる。 太陽の神、槍のルガの息子クーフリンは力と知恵の英雄。 クランの猛犬という名前の通り、猛犬を素手で殺してしまうほど。 牛捕りで、クーフリンをわなにかけた女王メーブの書き方が、闇の女王ボーディッカと王のしるしのリアサンにそっくりで驚いた。 完全に配偶者である王をないがしろにしているからだ。 同じアイルランドでも、メーブのいるコノハトは女系社会。 クーフリンのアルスターは男系社会。というのがよくわかる。 彼の武器は女戦死アイフェから譲り受けた魔法の槍ゲイ・ボルグ。 危険な槍で殺してしまったのは、親友と実の息子の二人だけだった というのが運命的で悲しい。この部分が、アーサー王によく似ていて、 何か関連がありそうな気がする。 自分の名前にかけて、犬を食べないという禁忌を守り通した クーフリンが最期のときになって、 犬の肉を魔女にすすめられるままに食べてしまう。 渡し場で血のついたものを洗う老婆。それがケルトの英雄の死を現す。 これを見たらどんな英雄でも運命は変える事ができない。 ケルトのどんな魔法も英雄の死を覆すことができない。 悲しいのに立派ですがすがしい、 それがケルトの戦士なのだろう。 読み物としてのアルスター神話群の決定版かも 日本ではクーフーリンという名で通っている、アイルランドのアルスター神話群の英雄譚を歴史小説の女王サトクリフが再話したものです。 翻訳はケルト的な躍動感や激しさを存分に伝えてくれていて、灰島さんの翻訳でよかったと思わせる訳でした。 ダナン神族の光の神ルーグと王族の娘との間に生まれた「セタンタ」としての少年時代、首打ちゲームのディテールが登場する「勝者の分け前」など、バラバラに伝わっている伝説をサトクリフ流に整理しているのですが、伝承に忠実で、しかも物語として読みやすく書かれているのはさすがです。 輝かしく時にユーモラスな物語や、アイルランドのイリアースと謳われる「クーリーの牛争い」の過酷で孤独な戦いなど、古代の英雄の激しさや美しさを堪能できる物語は!、同じ著者による静的な「ケルトの白馬」に対して非常に動的でダイナミックな面白さがあります。 特に義兄弟のフェルディアとの浅瀬での死闘は圧巻。 惜しむらくはこのダサダサなタイトルと悲しいほど趣味の悪い装丁です。 このタイトルの色使いとデザインはないんじゃない???? サトクリフの名誉のために書きますが、原題は「ハウンド・オブ・アルスター」(アルスターの猟犬)です。 これはクーフリンの勇猛さと力を称えた異名であり、この名の通りただ一人でコノハト軍からアルスターを守ったということから選ばれているであろうタイトルなので、生かして欲しかったと思います。 アイルランドの神話にはアーサ王伝説にもつながるディテールが登場しますし、トールキンなどにも多大な影響を与え!ていますので、ファンタジー好きな方には是非読んでいただきたいです。 このあとの「フィアナ騎士団」時代の英雄を描いた「フィン・マックールの冒険」と併せて読むのもいいと思います。 壮大かつ繊細なケルト神話 ケルト神話最大の英雄クーフリンは、ふだんは美少年なのに、戦うときは恐ろしい姿に変身します。そのクーフリンの短い生涯は、美しく切なく、圧倒的な迫力です。 ケルト好きな私の本年度最大のおすすめがこの本。 灰島かりさんの訳は、わかりやすいだけでなく、古代の雰囲気があって、読ませますよ。 私は友人にすすめられたんですが、児童書のあつかいらしく、街の本屋さんでは見つけにくいのが欠点。別に宣伝するわけじゃないけど、ネットで買うべし。
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