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青春の第一冊目
生きて来て、折々の本との出合い。 堀田善衛のこの「広場の孤独」は、私にとって、因縁の本。１９６６年初夏、高卒就職初給料で、買った最初の本。 単に書名で買った。孤独に成りたがっていた、青春期の私には良く解からない本だった。 が、自分の考え＝思想で貫こうと、している生き様に、共感したようだ。 以後の私的生き様のなかで、幾度となく、安易な妥協で潜りかわし続けた後に、主人公、木垣を思う。 この小説が、解かったのは、それからず?と後の事。 私が、少しは社会的に、大人に成った頃。 この本は、本当の大人とは何かを、若いあなたに知らしめるだろう。
”Ｓｔｒａｎｇｅｒ　iｎ　Ｔｏｗｎ”
「広場の孤独」は、第二次大戦終戦から五年後の朝鮮戦争時におけるある新聞記者の戦争にコミットするか否かの苦悩を題材とした作品。「漢奸」は日本の敗戦前後の上海を描いた作品。いずれも著者自身の実体験に基づいて書かれたものだと思う。

　"漢奸"とは、占領時に占領国民の日本人と親しく付き合っていた中国人を他の中国人が終戦後、蔑視するためにこう呼んだようだ。占領からの解放、イデオロギーの激流の中で昨日の隣人は一夜にして非難の対象となり、昨日の友は今日の敵となる矛盾、そして占領していた日本人よりもそれに付き合っていた現地の人が「漢奸」とひとくくりにされ、その人間性、実質を無視され重く罰せられた矛盾が小説漢奸には描き出されている。

　そして、広場の孤独。50年以上前に書かれた作品だが、小説という形であるが故か、あるいはその後もずっと絶えず戦争があり、その実体が変わっていないためか、現代においても心を打つ言葉に満ちている。この小説を読んでいてトルストイが「戦争と平和」の中で、歴史はあたかもその時代の政治家や軍の指揮者が導いているようだが、それは誤りであり、大衆の個々の中にこそ歴史はある、と語っていたことが想起された。一人の人間が戦争に（あるいは今なら環境問題にもあてはまるかもしれない）コミットするか否かを、意識してみても、経済主義社会からは弾き出されるだけで意味がないようにも思えてくる。しかし、それでもやはり考え苦しみ生きなきゃならん、そんな著者の声が聴こえてくる。　（以下は広場の孤独p.26より抜粋）
　「恐怖は判断についての確信を動揺させる。世界に共通の判断基準がなくなれば、あらゆる議論は反対側にとって、考慮の対象ではなく、挑戦とみなされるようになる。そうなれば理性はその役を果さず、歴史は人間の思考及び祈念をおしのけて自動的に破局へと廻転してゆく・・」
　
印象深く、感傷的
魅力的な表題につられて購入した。薄いしすぐに読みきれる。論理に訴えるというよりも感情の方に訴えてくるのでそれに任せて読んでいくと面白いと思う。「コミットメント」という言葉が何度も出てくる。「コミットメント」は、何気なく日常を過ごしているだけであっても遥か彼方の政治事件に何らかの意味で手を貸しているものだということだ。この小説は朝鮮動乱を材にとって、国籍、生い立ちによってそれぞれが持たざるを得ない考え方、感じ方の違いを浮き彫りにし、そしてさらに「赤＝マルクシスト」という純粋な理想主義者の異端的立場を示すことがその違いをさらに浮き立たせ、これらのことによって、彼方の政治事件を眼前に引き出している。 これを読み終えると、「さて、イラクは、、、、」なんて言い出したくなると思う。この小説では特に政治事件に関してとるべき態度について答えは示されていないのだけれど問題提起は伝わると思う。 要するに、政治事件に関して何らかの感傷的な感慨を持ちたい人、あるいは朝鮮動乱の頃の独特の熱気を少しでも感じたい人にお勧め。こういう人にはドンピシャです。その他の人にも分厚くもなく、平易に書かれているので十分に楽しめます。芥川賞もとってるから一応評価のある小説でもあります。 あ、このレビューは「広場の孤独」に関してだけです。