カスタマー平均評価: 3
経済小説は、生の経済を知る格好の教科書なのか。 「日本振興銀行」設立の発起人・木村剛氏が2000年5月に上梓した本...のはずなのに、途中までは妙に現実と同じ内容で、現実と虚構が入り乱れて、ある種ミステリー小説を読んでいるような錯覚に陥ります。 「経済小説」というジャンルがある事をこの小説で知ったのですが、読んでみると、生の経済を俯瞰できて、経済書を読むよりも実感する事ができます。新聞の経済欄・金融欄を読み飛ばす事も減りましたし。 日本の国債がGDPをはるかに上回っているのは周知の事だと思いますが、なぜそこまでなってしまったのか?日本銀行の役割は?大蔵省・金融監督庁・財務省の権限は?なぜペイオフが問題視されるのか?など、テレビの討論番組のテーマを全編に散りばめて、政官民入り乱れたステキに醜い物語(苦笑)に仕上がっています。ラストは妙に美しいので、小説自体の締めとしては良いのかもしれませんが、現実に目を向けると...ねぇ。 しかしそうか、気づかなかったけど、経済小説というのは、生の経済を知るには格好の教科書なのですね。読後に爽快感が無いのも教科書みたいだ。 たちの悪いプロパガンダ 本書の評判がいいのでびっくりしました。本書は、日銀官僚の尾てい骨が残る著者のさまざまな情念〜金融政策論から市中銀行をバカにする傲慢さまで〜を小説という形態で表現し、著者が信じる金融改革を、経済学による論証をパスして宣伝するプロパガンダ小説であると思います。 本書の言いたいことは以下につきます。金融政策は現在の不況対策には無効であるばかりか、放漫な垂れ流し財政とあいまって国民経済的には破滅的な効果を生じます。企業家の熱情と折り目正しい銀行の行動のみが不況を救うのであって日銀はなーんにもできません。日銀はインフレにならないよう、政府が放漫に走らないよう全力を尽くすのが仕事です。政府は垂れ流し財政はやめて、できの悪い銀行幹部を追放して不良債権を税金で埋め合わせなさい、でないとハゲタカ外資と癒着した質の悪い銀行幹部が国民の資産をむさぼりますよ。でも今の日銀と政府じゃそれは無理かなぁ。なんせ上の目ばっかり気にする小役人ばかりで。マスコミも感情論ばっかりで高邁な理論なんて理解できないんですよね。 以上の内容を、雰囲気たっぷりの言葉とちょっとした経済学のうんちくを交えて、筆者の代理人である数人の登場人物に語らせるのですが、実際には、例えば日本の破綻の記述など、経済学の素人である私にもみえみえの論理の飛躍を使ったりしています。要は本来的にフィクションという小説の性質をうまく活用して、理論と虚構をかき混ぜて「言いたい放題」をやっているに過ぎません。 ちなみに、文庫版で付け加わったまえがきには著者の「憂国の想い」が縷々述べられています。著者は本作品をリアリティあふれる未来予測小説であると信じています。そして、本書の最後には、これはフィクションであって、実在の状況と酷似していても偶然であると述べています。両者を並べて読むとき、本書の「言いたい放題」の立場を実感し、そしてその無責任さに慄然とします。 勉強になりました 新聞やテレビで見聞きしていた経済ニュースがこの小説を読むことで、線としてつながって理解できました。 読み物としても興味深く読むことができたので、おすすめです。 この本には、今後の日本経済がどうなるかについてもよそうされています。今後、日本経済がこの小説の予想するように展開しないことを祈るのみです。 第一級の経済情報小説 私はめったに自分が読んだ本を人に勧めることはしない(したくない)のだが、この本だけはもしまだ読んでいない人がいたら是非一読を勧めたいと思った。 まず経済「情報」小説として一級の仕上がりで、「Price ×Transaction=Money ×Velocity」の恒等式の重要性(特にV)とか「金融問題の根幹は信用である」とか財政構造改革と金融危機が同居した1997年がエポックであったこととか、その他多くの事柄を具体的な登場人物の議論と言動と内省を通じて実地に学べる。しかし、それよりもなによりも「小説」としての結構が素晴らしいのである。人物の絡みの不十分さとか偶然の出来事によるストーリーの転回とかいくつかの疵を指摘することは容易いと思うが、それらは大仰に言えばギリシャ悲劇をすら思わせる物語の骨格を前にしては小さい問題である。 私は本書を読み終えて著者の「切迫感」の実質がリアルに体感できた。怒号や悲憤では問題は解決しない。知性こそが、個人としての思考と認識とリスク回避行動を促す知性こそが頼りの綱なのだ。
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