カスタマー平均評価: 5
都市生活と麻子ちゃん わたしはおバカである。 上京して就職したら、おしゃれなレストランで食事して、映画を見て、インテリアにも凝るんだ〜。と、ぼんやりと思っていた。雑誌のひとり暮し特集、とかを読んで、その気になっていたわけですね。 そこのところを、橘川さんはこういう。「資産家の親を持たない普通の若者たちにとって、都市生活とは食費と家賃を捻出する行為である。」 そうですそうです。「わたしもこんなふうに暮らしたい〜」なんて思っても、初任給だけじゃ、できやしないんです。 言われなきゃわからないバカだから、断言します。こんなこというのは橘川さんだけです。 麻子ちゃんという女の子が出てきます。その描写。 「どんな混乱になろうと、麻子にとっては当事者意識がなかった。」 いるんですこういう子。彼女は、自分にも他人にも、上手く説明することはできないのに、自分にとってのこだわりはほかのところにある、って、知ってる子。 彼女の成り行きには、はらはらさせられました。落ち着くところも絶妙。 リアル/バーチャルで橘川さんがこれまでに出会った質量ともに膨大な人々、その考え、行動、性格が動き出したら、並みの小説家がかなうわけないんです。いちばんのこだわりは自分、なんて小説家が。 付けたし 軟弱に思えたタイトルが、読後硬派のひびきに変わりました。 不安を一掃する快作 橘川幸夫の新作が小説だという情報を得たときに、最初は何かの間違いではないかと思った。氏のこれまでの著作からは、小説を読んだり書いたりすることへの肯定性が感じられなかったからである。氏が作品に込めたであろうメッセージ自体への興味よりも「何が氏を小説に向かわせたのか」という付随的な興味というか不安に支配されながら読むことになった。 しかし、読み出すとすぐに小説の形式であることの的確さが伝わってきた。訝しがる必要などまったくなかった。早い話が、この方が氏のいつもの論述や日記のスタイルよりもわかりやすいのである。なぜ小説の方がわかりやすいのか氏がどの程度そのことを意識したのかはさておき、ともかくテーマ性を曖昧にすることなくわかりやすさと間口の広さと次作への期待を無理なく得ることに成功しているのは間違いない。これからもぜひとも続けて欲しいと思うスタイルである。 橘川さんの最新の洞察、このような形で読めるのはありがたい。 橘川さんは、独自の洞察力にあふれていて、それを惜しみもなく人に分け与える。 そのようなことを続けている橘川さんの「小説」である。さまざまな主人公の科白の中に、あるいは、さまざまな場面展開の中に、橘川さんの現代という時代に対する洞察、また、今、どんな気分でどんな暮らし方をしている人たちがいるのか。ということが展開される。 携帯コミュニケーションをこれだけ正確に、かつ、白けないような方法で小説の中で展開できるのも橘川さんならではの技であると思う。 マーケティング、広告、ライフスタイル。そして、日本で展開されてきたやきそばパンに代表される巧みの技。最後に登場する、その巧みの技こそ世界に誇るべきというNPO。このあたりの動き、正鵠を得ているのであろう。 リアルさがゾクゾクする!広い示唆に富んだ「小説」(?) この登場人物たちはきっと誰もの身の回りにいる。 リアルな設定にゾクゾクしてしまう小説。 一人ひとりの設定・描写がていねいなので 淡々とした筆致ながらも感情移入しやすいのに、 視点は「俯瞰」とでもいうべき角度で冷静。 このギャップがたまらなくオモシロイ! 小説の中の人生を生きている彼らは 実は読者である私の人生にも 「自分の知らないどこかで」かかわっているような気がしてくる。 日本の救いがたい経済・思想まで言及しながらも 橘川さんのまなざしは常にあたたかい。 純粋に小説として楽しんだ読者としては 「救いと希望」で締めくくられていてうれしかったです。 ちょっと的はずれかもしれませんが・・ 映画「デブラ・ウィンガーを探して」を見終わったあとのような あたたかくて幸せな読後感でした。 企画書が現実より早く小説として動き出す あのリクルートのキーマン=若き事業家たちが愛読した知られざる名著、橘川 幸夫さんの「企画書」。それは、私にとってもバイブルだ。知りたいこと、やりたいことが、既にほとんど書いてあった本に出会って、私のにぎやかな未来が開けた。 橘川さんのビジョナリーぶりは今も変わらない。止まらない。しかしネット時代の今でさえ、その先を見通したビジョンに、現実が追いつかない。常にタイムラグがつきまとっている。 この、フィクション・ノンフィクションが交錯する小説は、そのタイムラグ、認識ギャップを埋めてくれる。好むと好まざるとに関わらずやってくる未来、新しい日常を、感情を、疑似体験させてくれる。それに感化されて動く人たちも出てくる。そして橘川さんのまわりに集まってくる。だから何かが起こる。
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